Sarah's Diary

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2013.6.1 : 「ドラムで成功を収めて」Jack Mitchell インタビュー 英国吃音協会(BSA)のサイトより

www.stammering.org

 

ドラムで成功を収めて

グラストンベリー・フェスティバルでの演奏も記憶に新しく、「Later...ジュールズ・ホーランド」(ピアニストのジュールズ・ホーランドが司会を務めるテレビ番組)でも活躍を見せるドラマーのジャック・ミッチェル。英国吃音協会(BSA)がジョニー・マー(元ザ・スミスのギタリスト)のバンドでドラマーを務める彼に、有名になり成功を収めるまでを伺いました。

 

吃音を抱えて成長されて来た上での、ご経験をお聞かせください。

最初に吃音に気づいたのは8歳の時。当時、僕の両親は難しい関係性に陥っていて、結局離婚することになりまして。子どもの頃からティーンの時代まで、吃音は僕に大きな影響を及ぼして、とにかく名簿の点呼が怖かったのを覚えてます。上手く応対できる時もあるし、言葉に詰まって思ったことを飲み込んでしまう時もあったり。そんな時「はい」「うん」位の言葉しか言えなくて、間抜けな顔になってました。僕にとっては毎朝が鍛錬の場だったのを思い出します。気持ちを落ち着けて準備するんですが、「はい」も言えない時があって。よく、僕の吃音のことを知らないクラスメートの笑いものになっていました。

 

10代に入ると、いよいよ吃音が生活のあらゆる局面に影響を及ぼすようになって。特に女子に話し掛けるのは悪夢みたいで・・・時々吃音のことをいじったりされてましたが、友達は我慢して付き合ってくれてました。大学に入って初めて女の子とデートをすることになった時、とにかく電話をするってことがもう大変で!当時(1997年)はまだ携帯電話も普及してなかったから、自宅に電話して、親御さんに「お嬢さんをお願いします」って言わなくちゃいけなかった。ある時デートのことで連絡しなくちゃいけなくて、その時は結構上手く行ったんです。でも、彼女を電話口に呼び出すまでが、最初の大きな大きなハードルで、まさに恐怖でした。一言も発せられずに電話を切るしかなかったこともありましたよ・・・向こうが切らないから。絶対いたずら電話だと思われてますよね!こんなことが何回か続いて、段々僕もあせり始めたんです。それで思いついたのは・・・「お嬢さんをお願いします」って、自分の声を録音しておいて、親御さんが電話に出たら再生ボタンを押す、ってことだったんです。いいでしょ!でも、向こうが「もしもし」って言ってから再生するまで、ちょっと間が空いたりしてね。でも、この方法は結構上手く行きましたよ。

 

ご自身の吃音とは、長年どのように向き合って来られたのですか?

17歳の時に掛かりつけのお医者さんが「スピーチ・セラピー」について教えてくれたんです。4、5回くらい行ったかな?言葉を飲み込むのでなく、吃音でも発してみよう、って言うことでね。例えば僕が自分の名前を言えなくて、顔を引きつらせながら必死に言葉を発しようとすると、セラピストが「ジ、ジ、ジ、ジャ・・・ック」みたいに言うんだよ、ってアドバイスしてくれるんだけど。あんまり納得できなくて、それは諦めたんです。

 

ドラムを始めたのはいつ頃で、今のポジションに至るまではどんな風にやって来たのですか?

ドラムを始めたのは11歳の時で、自己表現の手段って言うのと、吃音から生まれる抑圧のフラストレーションと緊張感を解放する為って言う感じでした。高校に入る頃になると、ドラムができるってことが少なくとも「カッコいい」と思えるようになって、話せない障害のことからも、気を紛らわせられるようになりました。学校のバンドでも友達と一緒にずっと活動していたんですけど、そのころはまだそんなに真剣に考えていた訳じゃなかった。大学はそれまでの場所からかなり離れたところに行くことにしたので、友達とは別れなくちゃいけなくなった。でも、新しい土地でまるっきり新しい友人ができて、その中にレコード会社と知り合いがいたり、マンチェスターの音楽シーンに知り合いがいる奴がいたんです。皮肉なことだけど、僕の最初の仕事って、ザ・スミスのドラマー、マイク・ジョイスのテクニカルスタッフだったんですよ!その時彼は、同じくザ・スミスのベーシストだったアンディ・ルークと一緒に、イアン・ブラウンストーン・ローゼズ)のバンドでギターをやっていたアジーズ・イブラヒムの前座バンドで活躍してたんです。当時18歳でそんな人たちと関わりが持てたのは、本当に幸運だったと思っています!

 

「20歳でバンド契約。上出来!」

最初のドラマーとしての大きな仕事は、テイルガナーと言うバンドでプレイすることでした。ボーカルはマーク・コイルで、オアシスの "Definitely Maybe" のプロデュースをした人です。 アルバムではノエル・ギャラガーがドラムを叩いていたので、ライブでの演奏を僕がやることになったんです。(ちなみに、テイルガナーのツアーに出ている間に酒を飲み過ぎたせいで、吃音が悪化。それなのに飲めば飲むほど吃音の悪化に関する感覚が薄れて行った)テイルガナーでは、親友と呼べる存在のフィル・カニンガム(現ニュー・オーダー)に出会えました。彼はテイルガナーの前にマリオンと言うブリット・ポップバンドにいて、そのマネージャーがジョー・モスと言う、元スミスのマネージャーだったんです。今はコーンウェル出身の若手バンド、ヘイヴンのマネージャーをしてるんですけど、彼がドラマーを募集しているって言うんで。で、フィル経由で僕がオーディションに呼ばれたって感じです。そのオーディションに通って、仕事が来ました。ヘイヴンは既にヴァージンと契約していたので、僕は20歳でデビューすることになった訳です。上出来でしょ!

 

ジョニー・マーのバンドのドラマーになったのは2012年です。2001年、ヘイヴンの最初のアルバムを彼にプロデュースしてもらって会っていたので、僕のことは知っていたんです。ずっと仲良くしていたし、最初で最高の友達です。ある日ジョニーが「新しいアルバムで何曲かやってみない?」と言ってきたので、喜んでその話に乗って、気付いたら全曲叩いていました。アルバムのミキシングが終わる頃にはワールドツアーの話が出ていて、もう興奮しましたね。

 

マスコミのインタビューにはどう対応しているのですか?

ヘイヴンで成功してからと言うもの、TVとかラジオのインタビューを山ほど受けてきました。それはもう、怖いなんてもんじゃなかった!何とかバンド仲間に任せようと必死でした・・・でも、ドラマーに質問が来るってことないですからね?結局はバンドの絆で乗り切ってました。何か質問が来たら、これだけは言えるって言うフレーズを使うんです。たとえ意味をなさなくてもいいから、何か聞かれたら、一瞬固まった後「そうだね、僕らなりにやってみた一例に過ぎないかな」って言うの。何を聞かれても絶対こう答えるから、バンド内ではジョークのネタになってました。

 

「ジョニーは、僕にも僕の吃音にも本当に理解があって・・・どうしたら僕がリラックスできるか分かっているし、電話で沈黙が流れても切らない人なんですよ」

仕事上、吃音の影響はありますか?

テクニカルスタッフとのやり取りかな、特にライブでやる時は。ドラムの演奏に集中したいから、上手く話そうと余計に努力してしまう(それだけで十分大変なのですが)何か問題があったらすぐに伝えなくちゃいけないのに、言葉は詰まるし、表情にも出てしまうんで。目の前にTVカメラがあったら、そんなの嫌でしょ!

ツアーやライブでやるのはとても楽しいけど、吃音が邪魔になる場合もありますね。この前BBCのラジオ6でライブをやったんですが、スタジオが建て込みで僕だけ別の部屋で演奏しなくちゃいけなかった。ショーが始まる前サブの司会が僕の部屋に来て、他のバンドメンバーの名前を言えって言うんですよ。これからまさにライブが始まるって言うのに!超あせってやっとのことで言えましたけど、表情は最悪だったと思う。そのせいでどうだったってことはないけど、いつもよりドラムを叩くのが激しかったかも!

 

他のバンドメンバーは、あなたの吃音についてどう対応していますか?

僕の仲間は吃音にもずっと付き合ってくれてますね、最初に知り合った時から。ジョニーは、僕にも僕の吃音にも本当に理解があって・・・どうしたら僕がリラックスできるか分かっているし、電話で沈黙が流れても切らない人なんですよ。

 

ファンとの会話はどうですか?

ジョニー・マーとやっているとなると、ファンがいつでも話しかけて来ますね。でも皆は僕の吃音には気づいてないと思うな。避けた方がいい言葉が分かっているから、上手く隠すことができますから。たぶん皆は僕が大人しいだけだって思ってるんじゃないかな。実際そうなんですけどね。

 

リズム感が良いと、吃音にメリットがありますか?

リズムはとても支えになってくれます。何か発せられない言葉がある時(ビールを一杯か二杯引っ掛けていると特に!)ライムに乗せてこんな風に「ハロ~!ボクは!ジャック!ミッチェル!」って感じで言うんです。これは便利。でもこの方法が使えるのは、周りに僕の吃音のことを知ってる人がいる場合に限られますけどね。そうじゃないとふざけてると思われちゃうから!

 

他の有名ミュージシャンに会って話す時はどうですか?

ここ数年で、「有名」ミュージシャンにはたくさん会いました。最近だと、ストーンズロン・ウッド。NMEアワードでステージに上がって、一緒にザ・スミスの "How Soon Is Now" をやったんですけど、あれは夢みたいな出来事だった。他のミュージシャンといると、吃音で困ることが多々あって、言いたいことが時として言えなくなってしまうこともありますね。無理して引きつった顔で言葉を発するよりも、静かにしている方がいい時もあるかな。特に初対面の人の前ではそう感じます。

 

「ドラマー」のせいで、ジョークを言われたりしますか?

いつも「ドラマージョーク」は僕の鉄板ネタ。ブリッドポートのライブの後、しばらくスタッフが笑っていたネタがあるんですけど。会場にサウンドチェックしに入ったら、ステージの背景に「JOHHNY MARR」って巨大な装飾があったので「これ、僕らの?」って聞いたら、スタッフが爆笑して転げまわって・・・そんなの初めてだったんですよ。僕が聞きたかったのは「会場が僕らのために準備してくれたの?」ってことだったんだけど!?

 

 

 

【Words】

hit the big time  成功する、一流になる、大当たりする

school register  学籍簿

dig 皮肉、当てこすり

get through to ~に言いたいことが通じる、~に連絡がつく、~に届く

pent-up  (感情などが)抑圧された、押さえつけられた 

impedement (主に言語の)身体的障害

pick up on [話]~に気付く

 

 

【Note】

Johnny Marrの記事を検索するうち、バンドメンバー、ドラマーの Jack Mitchell (@jackthesticks) | Twitter のインタビュー記事がヒット。興味深かったので取り上げてみました。

"stammering" という単語を恥ずかしながら知らなかったので、何かドラム関係の言葉かと思って読み始めたのですが、調べてみると「吃音」のことだと分かり・・・幼少期から吃音というハンディキャップを抱えて生きて来た彼に、ドラムという光明がもたらされたことは本当に幸運だったのだな、と感じます。

 

当事者にしか分からない苦悩や葛藤が詳細に語られていて、率直な言葉から、一層心を打つものがあります。そして、インタビューを通じて語られる、1人の人間としてのジョニーの姿。メンバーを大切にし、彼らの才能を尊重するそのスタイルが伝わって来るようです。

 

しかし、最後の「ドラマージョーク」って何だろう??ニュアンスがちょっと分からないのですが・・・調べてみると以下のような感じ。

Q ドアの前の男がドラマーかどうか見分ける方法は?

A  ノックがどんどん速くなる

Q ドラマーがバンド仲間に一番言いそうにないことは?

A 「今度は俺の曲をやろうぜ!」

Q ドラムソロとくしゃみの共通点は?

A 来るのは分かっているが、なす術がない

え?分からない、この感覚!!笑

どなたかドラムに詳しい方、解説をお願いします・・・