2018.5.17 : マンチェスターロックの雄 ジョニー・マー ロンドン公演レビュー
ジョニー・マー
5/16 ロンドン イズリントン・アセンブリー・ホール公演
ザ・スミスの演奏に喝采、新アルバム "Call The Comet" も彩りを添える
モリッシーのボーカルスタイルへの挑戦も恐れず
(評:マーク・ボーモント)
▲(画像)ザ・スミスの呪縛からの解放
「次は右翼の台頭についての曲です」マーは (新アルバムの楽曲)"Bug"をこう紹介した。3枚目のアルバムのうち、最も明らかに政治的な一曲だ。一瞬いたずらっぽく笑った後、「僕はそう解釈してるので」と続けた。
ことマーについて語る時、かつての盟友モリッシーのことを考えない訳には行かない。バンドが解散して30年の月日が経とうとしているのにもかかわらず、歴史は二人を縛り続け、今話題の「YannyとLaurel」かカインとアベルのような葛藤があっても、いつか再結成ツアーに乗り出すのではないかと憶測はやまない。
今日でさえ、二人のキャリアは無意識のうちに共生的と言える。場あたり的な動物愛護政策(反ムスリム主義は、モリッシーの大好物である反ハラルを意味する)のお陰で、モリッシーが極右政党のフォー・ブリテン党支持を明言する一方、マー自身はかつてのザ・スミス時代の経験に対しても、まるで吹っ切れたような印象を与える。
彼自身は気づいていないかもしれないが、そのプレイは実に威厳に満ちている。新アルバム "Call The Comet" のイメージに合わせ照明を落としたステージに、輝くボンバージャケットに身を包み、完璧なまでの隙に満ちた寝癖で登場した、マンチェスターロックの雄。"Big Mouth Strikes Again" を演奏するその姿は、昨今の怒涛のような政治的な流れから、自らの遺産を救済しようとするかのようだった。しわがれ気味ながら、決して不器用ではないマーのボーカルは、セットリストの合間に時折挟み込まれるザ・スミスの曲に、新しい味わいを吹き込む。燃え上がるような "Big Mouth…" の演奏には、彼の代名詞であるアルペジオが突き刺さり、ポストパンクの騒々しい一群とは一線を画した存在であったザ・スミスを彷彿とさせるものがある。それに続く "The Headmaster Ritual" も、デイ・トリッパー時代のビートルズを感じさせるものがあった。
また、新たな挑戦をもやってのける。"Last Night I Dreamt That Somebody Loved Me", " Please, Please, Please Let Me Get What I Want", "There Is a Light That Never Goes Out"、また "How Soon Is Now?" など、モリッシーがライブで定番としている名曲の数々も、ジョニーの手にかかれば主役はギターになることが歴然だ。あのモリッシーの独特過ぎるほどのボーカルスタイルに挑戦することも恐れず、元のバンドのフロントマンと同等に、マーは自らの手で堂々と楽曲の所有権を守ろうとしているかのようだ。「隣の家のカリスマ詩人」モリッシーもまた、ザ・スミスの恐るべき断片の一部であることは間違いないのだが。
ファンに嬉しい楽曲のほか、軽快なElectronicの名曲 "Getting Away With It" 、 "Call The Comet" からの新曲の数々で見せ所は満載だ。「アンチ・モリッシー」的かどうかはさておき、AIを搭載したエイリアン "The Tracers" が人類をポピュリズムの愚行から救おうとやって来るーその設定は近未来だ。しかしながら、サウンド的には過去への回帰がある。差し迫る破滅を予感させるモトリックビートの "Actor Attractor", "New Dominions" はジョイ・ディヴィジョンやデペッシュ・モードを思わせるものがあるし、所々にゴシック調のアレンジも感じられる。
モデスト・マウスやクリブス と言ったバンドで、長年ギター・レジェンドとして活躍して来たマー。ソロとなり、スタイルの確立に試行錯誤してきたように見える。インディ・ギターの旗手かつ大御所として生み出した "Hi Hello" は、かつての名曲 "There Is A Light..." を思わせ、マーがオルタナティブロックの象徴的存在として世に出るきっかけとなった一夜を表現している一曲だ。1つだけ確実なのは、もし万が一、ザ・スミスが再結成するようなことがあれば、その時はツアー・マネージャーとして、デヴィッド・ディンブルビーの存在は欠かせない、ということだろう。
【Words】
show-stopper [話し言葉]〔ショーが一時中断されるほどの〕拍手喝さいの名演技[名演奏・せりふ]、人目を引く物[人]
erstwhile [文語]昔の
symbiotic 共生の
gruffer しわがれ声の、だみ声の
gobby やかましい
rabble 暴徒、大衆
foppish おしゃれな、めかした
quintessentially 典型的に
idiosyncratic 特異な、独特な、変わった
fraction ほんの一部、断片
fodder (話題になるような)素材、ネタ
folly 愚行
doom-laden〈英〉差し迫る破滅[悲運]を暗示[予告]する
virtuoso (イタリア語)音楽の名演奏家、名手、巨匠
【Note】
現在ヨーロッパツアーに出ているジョニー。どんなライブなのかな?と興味を持ち訳し始めましたが・・・何だかとても難解なライブ評でした。単語の難易度も高い上、非常に感覚的な比喩表現が多く、特に後半は自信がないです。ご容赦ください。
私はビートルズについての知識がほぼ皆無なので、"Day Tripper" がビートルズ史上どのような意味付けをなされている曲なのかもまるで分からないのですが、即ち名曲=最盛期だということ・・・なのでしょうか!?
とにかく、ジョニーによるザ・スミスの演奏が今までのものとは違って聞こえそうなこと、新アルバムからの曲は近未来を想定した非常にコンセプチュアルなものになっていそうだと言う2点は確かなようです。